経済評論家の森永卓郎さんが逝去されました。庶民目線の経済論をわかりやすく伝えてくださった森永さんのご功績に深く感謝し、ご冥福をお祈りいたします。
私たちが生きる資本主義社会では、お金はただ持っているだけでは増えません。銀行に預けても低金利のもとではほとんど増えず、インフレが進めばその実質的な価値はむしろ目減りしてしまいます。お金を増やすためには、投資やビジネスといった手段を取らざるを得ませんが、それには当然、リスクが伴います。
資本主義の仕組みの中では、常に「勝者」と「敗者」が存在します。利益を得る人がいる一方で、損失を抱える人もいます。加えて、経済全体においては格差の拡大やバブルの発生など、長い歴史を通じて繰り返されてきた構造的な問題が存在しています。
なぜこのような仕組みが成り立っているのでしょうか? そして、資本主義の中で生きる私たちは、この現実にどう向き合い、どのように立ち回るべきなのでしょうか? 今回は、資本主義の本質と、それに振り回されずに生きるためのヒントを考えてみたいと思います。
もくじ
お金が自動的に増えることはない
資本主義の世界では、お金はただ持っているだけでは増えません。投資やビジネスを通じて利益を得る人もいれば、逆に資産を失う人もいます。金融市場では「勝者」と「敗者」が常に存在し、誰かの利益は誰かの損失の上に成り立っています。さらに、格差の拡大やバブルの発生など、経済の仕組みには構造的な問題が潜んでいます。
水原通訳はなぜ”転落”したのか
水原通訳の転落は、ギャンブル依存症に陥ったことが原因です。負けを取り戻そうと大金を賭け続け、最終的に資金が尽き自己制御を失いました。ギャンブル依存症は金銭欲だけでなく、スリルを求める心理が根本にあります。
依存症は特殊な問題ではなく、誰でもかかる可能性がある病気です。金融市場における投資行動も、ギャンブル依存症に似た心理状態を引き起こすことがあります。依存症の恐ろしさを理解し、予防と克服のために意識することが重要です。
「勝った人」の分だけ「負けた人」が生まれる
ギャンブルや投資でお金の総額が増えることはありません。ギャンブルでは勝つ人がいれば、その分負ける人も必ずいます。投資も同じで、全体としてお金が増えるわけではなく、勝者と敗者が生まれる仕組みです。
また、平均株価は全ての企業の平均値を反映しているわけではありません。例えば、ニューヨークダウはわずか30社、S&P500でも500社に過ぎません。全米の企業数は566万社にのぼりますが、平均株価を形成するのはほんの一握りの「勝ち組企業」だけです。
日本の場合も、日経平均株価は178万社の中からわずか225社によって構成されています。仮にすべての企業の株価がまったく上がっていない状態でも、格差が拡大すれば、平均株価は上がります。平均株価は「勝ち組」の株価を平均したものに過ぎないという点を理解することが重要です。
資本家がカネを増やし続けるカラクリ
格差の拡大には、労働者への報酬抑制というもう一つの重要な要因があります。本来、ゼロになるはずの利益が維持されてきたメカニズムを見ていきましょう。
フランスの経済学者、トマ・ピケティは2013年に『21世紀の資本』という書籍を出版し、世界的にベストセラーとなりました。ピケティは20カ国以上の経済データを200年にわたって観察し、重要な経済法則を発見しました。それが「r > g」という法則です。「r」は資本の収益率、「g」は経済成長率を指します。
資本家は働かずしてカネにカネを稼がせているため、資本の収益率はいつの時代も5%程度で安定しています。一方、経済成長率は景気により上下し、4%の成長を遂げる年もあれば、ほとんどゼロ成長の年もあります。つまり、資本家は景気が良くても悪くても、毎年5%のペースで確実に資産を増やし続けているのです。
マルクスは、「資本は増殖し続ける価値」であると喝破しました。マグロが泳ぎ続けないと窒息するように、資本家も常にお金を増やし続けなければならないのです。経済のパイが増えないときでも、資本家はお金を増やし続ける方法を見つけ出します。それが、労働者からの収奪です。労働者に分配されるべき付加価値を取り上げることで、資本家は利益を維持してきました。
しかし、このやり方は限界に近づいています。労働者への報酬を抑制しすぎれば、生活できなくなった労働者は消費を通じて企業の経営を支えることができなくなります。
資本主義の宿命・バブル
格差の拡大は「平均株価」という見せかけの株価を押し上げ、利益が増えなくても株式市場全体で株価上昇が起こることがあります。これは資本主義の宿命である「バブル」によるものです。この200年間で、世界は70回以上のバブルを経験してきました。資本主義の歴史は、バブルの発生と崩壊の繰り返しです。
では、バブルとは一体何でしょうか。バブルとは、商品やサービスの価格がその生産に投じられた労働の量を超えて不自然に上昇する現象です。通常、商品やサービスの価値は、その生産にかかる労働コストに基づいて決まります。
しかし、バブルでは、商品が本来の価値に見合う価格で取引されるのではなく、市場においてその商品を欲しがる人が多ければ多いほど、値段が上がるというメカニズムによって引き起こされるのです。
バブルは、実体経済とはかけ離れた価格がついてしまう現象であり、それが崩壊する時、急激な損失を生むことになります。資本主義の中で、バブルは繰り返し起こるものの、その度に大きな影響をもたらすのです。
バブルはこうして生まれる
バブル発生のメカニズム
バブルが発生する最大の理由は、人々が「いま買っておけば、将来値上がりする」と思い込むことです。まず、魅力的な「投資対象」が注目されると、買い手が増えて価格が上昇します。値上がり益を得た人々を見て、さらに多くの人が参入し、価格上昇が加速。この繰り返しによって、バブルは膨らんでいきます。
世界で初めてバブルが発生したのは1630年代のオランダで、投機の対象となったのはチューリップの球根でした。チューリップはその美しさで人々を魅了し、品種改良により希少な品種が次々と生まれたため、熱狂的なブームが起こりました。ジョン・K・ガルブレイスの『バブルの物語』には、一箇の球根が『新しい馬車一台、葦毛の馬二頭、そして馬具一式』と交換されるほどの価値を持つようになったことが記されています。
しかし、バブルは永遠には続きません。1637年2月、価格の高騰に危機を感じた一部の投資家が手を引き始めると、売りが売りを呼び、球根の価格は暴落。借金までして投資していた人々は次々に破産に追い込まれました。
バブルが繰り返される理由の一つは、世代交代によって過去の記憶が薄れることです。オランダでは、チューリップバブルから約100年後に「ヒヤシンスバブル」が発生し、再び球根の価格が異常に高騰しました。バブルの歴史は、何度も繰り返されるのです。
強欲な金融業者
ギャンブルが続けば続くほど儲かる人
大きなバブルがはじけると、大衆は軒並み破産状態になります。利益の大半は再投資に回され、手元に残ることはほとんどありません。そんな中で確実に儲けるのが「胴元」です。
すべての投資がゼロサムゲームである以上、勝つ人がいれば、その分、負ける人がいます。トータルでみれば、全体のお金はまったく増えません。競馬、競艇、宝くじでも、まったく同じです。ところがギャンブルが続けば続くほど、胴元は確実に利益を積み上げていきます。
たとえば、馬券を買うと、買った時点で4分1のお金を失うことになります。サッカーくじや宝くじでは、買った途端におよそ半分のお金が胴元に取られます。ラスベガスのカジノの払い戻し率は一見、高く見えますが、繰り返し賭けるうちに資金はどんどん吸い取られていきます。
結局、ギャンブルで確実に勝ち続けるのは「胴元」だけ。 多くの人が夢を見る一方で、彼らは着実に富を蓄えていくのです。
そして、あなたは熱狂する
あなたを虜にする「快楽」欲求
元財務官僚で、数量政策学者の高橋洋一氏に「競馬をやりますか?」と尋ねたところ、「期待値が75%しかない取引をなぜする必要があるのか」と即答したそうです。「合理的経済人」なら損を避けますが、現実の人間はしばしば不合理な行動をとります。
経済学者ティーボール・シトフスキーによれば、人間の欲求には「安楽」と「快楽」の2種類があるといいます。「安楽」は安定した快適さで、エアコンの効いた部屋でふかふかのソファに腰掛け、香りのよい紅茶を楽しむような状態。一方「快楽」は刺激レベルの変化で、大汗をかいた直後に、冷えたビールのジョッキを一気に飲み干す感覚がそれにあたります。
そして、人を虜にするのは圧倒的に「快楽」のほうです。遊園地のジェットコースターやお化け屋敷のスリルが人気なのもその証拠。人間は本能的に刺激を求め、「快楽」に支配されているのです。
豊かな老後のための本当の投資とは?
老後の豊かさは「自産自消」にあり
経済評論家・三橋貴明氏は、セミナーで「これから投資すべきものは?」と問われ、即座に「農地」と答えたそうです。聴講者は「半導体株」や「S&P500」といった答えを期待していたため、驚きを隠せなかったといいます。しかし、これは単なる冗談ではなく、三橋氏自身が長野県飯田市に農地を購入し、将来的に農業を始める計画を立てているとのことです。
同じく森永卓郎氏も、老後の不安を解消する方法として「大都市を離れ、トカイナカや田舎で自産自消の暮らしをすること」を提案しています。
具体的には、野菜を自ら育て、太陽光発電を活用すれば、生活費は月10万円以下に抑えられるといいます。対照的に、都心での暮らしにこだわると、高騰する生活コストに追われ、投資というギャンブルに頼らざるを得なくなります。
地方移住には、それほど大きな資金は必要ありません。家・畑・山までついて1000万円以下で手に入ることも珍しくないのです。新型コロナの影響で東京に出る機会が減るなか、森永氏自身がこのライフスタイルを実践し、持続可能な暮らしの可能性を示しています。
老後資金の不足に怯え、投資という麻薬に依存するのではなく、自らの生き方を根本から見直すことが大切です。都会の消費型生活から脱却し、自分の手で暮らしを支える力を身につけることこそ、本当の「豊かさ」への投資ではないでしょうか。
以上です!
資本主義の現実を理解し、過剰な投資依存から解放されることが、真の豊かさへの第一歩です。物質的な追求に振り回されず、自分らしい人生を築いていきましょう!