インターネットが情報のあり方を変えたように、ブロックチェーンは社会の構造そのものを変えようとしている。これは単なる技術ではない。中央集権型の管理者を必要としない、新たな社会の仕組みを生み出す思想である。
これまでブロックチェーンは、主に金融や仮想通貨の文脈で語られてきた。しかし、本質的な価値はそこではない。この技術は、あらゆる組織やビジネスの在り方を根本から変革し、より公平で自由な世界を実現する可能性を秘めている。
すでにその変化は始まっている。巨大企業による支配が続いてきた時代は終わりを迎え、分散型・非中央集権型へと移行しつつある。トランプ大統領が仮想通貨政策を国家の優先課題とし、米国をブロックチェーンの拠点にする意向を示したのも、その流れの象徴といえるだろう。
今こそ、ブロックチェーンを「仮想通貨のための技術」としてではなく、「社会の仕組みそのものを変えるテクノロジー」として捉え、その可能性を探るべき時だ。これは単なる技術革新ではなく、未来を選ぶための選択でもある。
もくじ
ITの進化と「四種の神器」
ここ10年でIT業界のキーワードとなった技術を「四種の神器」として整理すると、以下の4つになります。
- IoT(データを収集する技術)
- クラウド(データを保管する場所)
- ブロックチェーン(データを安全に管理する仕組み)
- AI(データを活用する技術)
これらの技術は、それぞれ独立しているように見えますが、実は密接に関連しています。
「四種の神器」の役割
「四種の神器」の役割を詳しく見ていきましょう。
「IoT」は、センサーを用いてデータを収集する技術です。たとえば、製造業や物流業では、機械の状態や気温、湿度、位置情報など、今まで取得できなかったデータをIoTデバイスがキャッチできるようになりました。
次に、そのデータを格納するのが「クラウド」です。クラウドの登場により、そこにあるハードディスクにデータを入れるよりも雲の上に置いた方がいい、という感じでクラウドの利用が急速に広がりました。
しかし、ただデータを集めるだけでは価値が生まれません。そこに登場するのが「AI」です。AIは、クラウドに蓄積されたビッグデータを解析して、社会の中で活用するための手段として急に再注目されるようになりました。
そして、最後に登場するのが「ブロックチェーン」です。ブロックチェーンは、データを安全に管理する仕組みとして注目されています。ここでイメージしやすい例え話として、クラウドという雲の上にタンスを置き、仕分けして鍵をかけて誰も開けられない状態にするのがブロックチェーンです。
おさらいしましょう。
- IoTでデータを取り、それをクラウドに保管する。
クラウド上のデータはブロックチェーンで仕分けしてセキュリティ対策を万全にし、そして必要なデータをAIによって活用していく。
この4つの技術が相互に作用することで、私たちの社会やビジネスは大きく変革していきます。
進化するITの流れをとらえて今後のビジネスを考える上で、最も新しく、最も社会を変える可能性を持つ技術といえるのがブロックチェーンです。理解していただいたバックグラウンドを踏まえて、次にその中身に迫っていきます。
ブロックチェーンの仕組みと特徴
ブロックチェーンとは、大きく分けて4つの技術を組み合わせた仕組みと理解してください。
- ①暗号化技術
- ②コンセンサスアルゴリズム
- ③ピア・トゥ・ピア(P2P)
- ④DLT(分散型台帳技術)
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
①暗号化技術
ブロックチェーンでは、各取引データが暗号化されています。これは一対一のトランザクションごとに、その記録が暗号化される技術です。ポイントは「1回の取引ごと」に暗号化が行われること。1トランザクションのセキュリティ対策に不可欠なのが暗号化技術です。
ブロック管理
ブロック管理は、個々の取引データを一定数まとめて「ブロック」とし、それを順番につなげて管理する仕組みです。
たとえば引っ越しの際の、食器を運ぶことを考えてみましょう。
食器が割れたり、傷むことに対し十分に注意するには、食器を1点ずつ紙などで包んでそれぞれ同サイズをビニール袋に入れます。そしてビニール袋入りの食器類を数点まとめてダンボール箱に詰めて、その後そのダンボール箱をガムテープで止めて、中身は「皿」「グラス」などと書いて保管する。そんなイメージです。
それぞれ安全に梱包した一つひとつのものを集めて一個の箱にまとめて、箱にまた封をする、というのがブロック管理です。
ブロックは番号で管理され、前後のブロックとチェーンのようにつながっています。ここは特に大事なところですが、どれか1個のダンボール箱を開けて中身を入れ替えると、前後のダンボールとの番号のつながりがなくなってしまうという特徴があります。順番につながっていく状態を保つには、ダンボールの中身を触ってはいけないのです。
ここまでを振り返ってみましょう。
- 取引が行われたら、まずこの取引の記録を暗号化する。暗号化された取引データがどんどん増えて貯まっていく。これらをダンボールに入れて、また封をする。また取引が発生して新しいダンボールを用意する。入れてまた封をする。さっきのダンボールと今のダンボールの順番がわかるようにつなげる。これがブロック管理というわけです。
②コンセンサスアルゴリズム
そしてコンセンサスアルゴリズムです。暗号化されたデータをブロックにするとき、これでブロックにしていいですか、本当にこのブロックには正しい情報が入っていますか、といちいち全員に確認してからブロックの封をするのがブロックチェーンのやり方です。
たとえば、ダンボールにいっぱい服を詰めたとします。「みなさん見てください、ほかの変なものは入っていませんよね」と見せます。「確かに変なものは入っていません」とみんながOKをくれたら封をします。
この、みんなからOKをもらうという「合意形成」の作業。この作業が、コンセンサスアルゴリズムと呼ばれています。
ここで再度振り返ります。
- まず1件のトランザクションに対してセキュリティ対策をとる。その1件1件をまとめたブロックについてもセキュリティ対策をとり、なおかつ、ブロックにまとめる際にそのこと自体に対してみんな大丈夫だよねという確認をとる。セキュリティ対策が何層にもなっているのがブロックチェーンの特徴です。
③ピア・トゥ・ピア(P2P)
今、「みなさんこれで大丈夫ですね」と全参加者に確認をとるという行為について述べました。でもよく考えたら、これはどうやってやるのでしょうか。これを可能にしているのが、個々の参加者同士が通信するピア・トゥ・ピア(P2P)技術です。
P2P技術の例として、約15年前に大流行したWinnyがあります。Winnyは、PC向けシェアウェアで、個人のPCを無数につなげてネットワークをつくり、データの交換を可能にしていました。
Winnyは扱ったファイルには大いに問題がありましたが、テクノロジー的には素晴らしかったのです。誰かが取り仕切って音楽配信をしていたわけではなく、個人間でやっていた。中央集権ではないシステムです。
ビットコインのようなものを15年ぐらい前にやっていたわけです。このときのP2P技術がブロックチェーンに使われています。
理解していただきたいのは、どこか1ヶ所のPCやサーバーが故障したとしても、ほかが同じ情報を持っているので大丈夫という構図です。まさに分散型。中央集権だと一つがデータを持っていてそこを潰されたらアウトだけれど、全員が持ち合っているからデータがなくなることはない。こうした状態を実現できるのがP2P技術です。
④DLT(分散型台帳技術)
最後がDLTです。分散型台帳技術を意味します。先ほどいったP2Pでつくる分散型モデルの中の、1カ所1カ所に台帳を持っている状態です。
たとえば銀行が、私の銀行口座からマイナス1000円、Aさんの預金口座にプラス1000円、のような取引の処理をするとして、口座データは銀行が持っていますね。万が一、銀行が突然なくなってしまったらどうでしょう。銀行がなくなるのが極端だとしても、データに何かが起こったらどうでしょう。大混乱になります。
その点、ブロックチェーンのDLTであれば、それぞれがそれぞれのデータを持っています。私が実はAさんの預金通帳も持っている。Aさんも私の預金通帳を持っている。みんなで持合いますからこうなります。持ち合うことによって、もし一ヶ所でAさんのデータが消去されても、みんなAさんのこと知ってますよ、情報持ってますよ、という状態になります。
「預金通帳を他人に見られてしまうの?」と驚く方もたくさんいらっしゃるでしょう。ここはとても重要で、ブロックチェーンのデメリットともいえる点です。みんなが持っていてチェックするということは、そのデータを誰でも見ることができるということです。
例として通帳の話をしてみましたが、実際には、どこの誰が貯金をいくら持っている、という情報をブロックチェーンに入れることはあり得ません。プライバシーに直結しない情報を入れるのがブロックチェーンの正しい使い方です。
DLTの最大の利点は、データ改ざんへの強さです。仮に悪人が善人のパソコンに侵入して、分散型台帳を書き換えたとしても、残りの圧倒的多数の台帳は改ざんされていないから、比較すればあれ?おかしいぞ?となります。
そうすると全部の参加者が一斉に台帳を書き換えない限り、改ざんは事実上不可能になります。だからブロックチェーンは、改ざんできないことを担保されているといわれるわけです。
ブロックチェーンの最大の運用例「ビットコイン」
ブロックチェーンの最大のユースケースは、仮想通貨、ビットコインです。
しかし、ブロックチェーンは仮想通貨を実現させているテクノロジーであり手段です。仮想通貨=ブロックチェーンではありません。ですから、ブロックチェーンを手段としていても、仮想通貨ではない別のサービス、といったケースも当然出てきます。
ビットコインは誰が発行している?
まず、ビットコインというのは2008年にサトシ・ナカモトという人が論文で仕組みを発表しました。この人はインターネットの技術者コミュニティに英語で投稿していた人で、日本人の名前ですが日本人とは限らず、未だに正体はわかっていません。
そして2009年の1月3日に一番初めのブロックが作られました。先ほどのブロック管理のお話で例えとして申し上げた、最初のダンボール箱です。ここで最初のビットコインが発行されました。
ここで質問です。ビットコインは誰が発行していますか?
サトシ・ナカモト氏でしょうか。違います。ビットコインの特徴は、発行主体を持たないことです。無理矢理にでも発行主体を特定したいなら、「ブロックチェーン技術が発行している」というべきでしょう。
特定の誰かが発行しているわけではないけれど、ブロックチェーンによって誰でも利用者=参加者になることができる。そして、そのプログラム自体や取引履歴が検証できるようになっていて、透明性・信頼性が高い仕組みとなっています。
ビットコインの取引とウォレット
ビットコインを利用するには「ビットコインウォレット」という、いわばその人専用のお財布を持つことになります。実はこのウォレット、日本語で「財布」を意味しますが、中に仮想通貨が入るわけではありません。
ウォレットに保管されるのは、IDに紐づいた、このIDだけの「秘密鍵」と「公開鍵」という特別な鍵だけです。
2種類の鍵で暗号化
ビットコインの取引は、まず「どれだけの量のビットコインをいくらで買いたい/売りたい」といった注文を暗号化することからスタートします。この暗号化のためにどうしても必要となるのが秘密鍵と公開鍵で、これがウォレットに格納されているというわけです。
このウォレットが働くのは、インターネット上ではなく個人のデバイス上です。暗号化の作業が、ブロックチェーンネットワークに注文を送り出す前段階の作業だからです。例えるなら私たちが普段eメールを誰かに送るときに、個人のパソコンやスマホでメールの文章を書いているイメージです。まだ送信ボタンを押していない状態と同じです。
むろん誰でも簡単に解読できないような文字列へと変換されています。これを「ビットコインアドレス」と呼びます。このアドレスと公開鍵が、誰にでもみられるところで表現される唯一無二の文字列になります。片や秘密鍵の方は絶対に他人に見られてはなりません。
暗号化技術で無事、注文が暗号化され、独自のビットコインアドレスが生成されると、ここで初めてインターネットの世界へ注文情報=ビットコインアドレスが飛び出します。
暗号化された取引データは、インターネットを介してネットワーク参加者全員に届けて「この暗号化されたビットコインアドレスは、正しいでしょうか?何か不正はないでしょうか?」と確認を依頼するのが次の段階です。
全ノードが確認
この全てのビットコイン参加者を「ノード」と呼んでいます。具体例として、参加者のパソコンを思い浮かべればわかりやすいでしょう。実際にはもっと大きなサーバーや個人のスマホも含まれます。無数のノードが、それぞれつながって無数の結節点となり、蜘蛛の巣のようなブロックチェーンネットワークを形づくっているイメージです。
各ノードは、送られてきたビットコインアドレスが正当なものかどうか、確認することができます。ビットコインの取引が成立するためには、すべてのノードからの承認を得なければなりません。
ちなみにこうしてビットコインアドレスがインターネットの世界に飛び出して、すべてのノードに送られることを「ブロードキャスト」と呼びます。
ブロードキャストされたビットコインアドレスは、自分から一番近いノードへと送られ、正当性を認められると、次から次と近くのノードへ伝播される仕組みになっています。各ノードは、中央集権的にどこか特定のハブを介してつながっているわけではなく、ピア・トゥ・ピア(P2P)技術で、ノード間で直接やりとりしています。
こうして全ノードから有効確認を受けたアドレスは、ビットコインネットワーク内にある「トランザクションプール」という場所に溜められます。
このプールには、すべてのビットコインアドレスが集められ、溜まっていきます。ただ、注意が必要です。溜まっているアドレスは全ノードが有効と判断したアドレスですが、それぞれはまだ注文として承認されてはいないのです。まだ最終的な決済を終えていないということです。「検証済みだが未承認のトランザクション」といういわば中途半端な状態で、プールに溜められています。
次なる作業は、このトランザクションプールに溜まったビットコインアドレスをブロック詰めすることです。先ほどダンボール詰めに例えて、コンセンサスアルゴリズムとして解説した部分です。
ビットコインの場合、コンセンサスアルゴリズムにはPoW(プルーフオブワーク)といわれる手法を採用しています。PoWを理解するために知っておくべきことがあります。ビットコインの参加者、つまり各ノードの役割についてです。
ノードの役割
ノードの役割を分類すると、次の4種類になります。
- ①ウォレット
- ②ルーティング
- ③マイニング
- ④フルブロックチェーンデータベース
①のウォレットは先に述べた通りです。そして暗号化されたビットコインアドレスがウォレットから出てきて、これを全ノードが検証するといいましたが、この全ノードによる検証のことを②ルーティングと呼びます。
そして③のマイニングが、今回のコンセンサスアルゴリズムを実行する大きな役割を担います。
マイニングとは、トランザクションプールに溜まった検証済みビットコインアドレスを、ブロックへ詰めていく作業のことです。1ブロックに約4200件のビットコインアドレスが格納されます。これをやるノードが「マイニングノード」または「マイナー」です。
ただ、マイナーがたくさんいるからといって、あちこちでいろいろな種類のブロックが出来上がるわけではありません。最終的に完成するブロックは、1回の作業あたり原則たった1つです。1つのブロック詰めに何故多くのマイナーがとりかかるのか?これがビットコインを理解する上での重要なポイントとなります。
トランザクションプールに溜まっているビットコインアドレスは、ルーティングによってすべてのノードで検証を終えています。これらをブロックに詰めるマイナーが、もしも1人だけだったらどうなるでしょう? このマイナーは、ブロック詰めの段階で悪さをするかもしれない。改ざんするかもしれません。
したがって、あえてマイナーが何人もいる状態をつくって、競争させる。これがビットコインの特徴です。
マイナーはブロックを生成するために、ある値を導き出す非常に複雑な計算クイズのようなものに正答しなければなりません。たくさんのマイナーが、その数字をはじき出すスピード競争をおこないます。一番早く正答し、ブロック詰めを終えたマイナーが勝利するわけです。
この計算競争に勝つため、高性能のコンピューターがたくさん必要になります。もちろんそのための電気代も場所代もかかります。
マイナーはどうして、そのような面倒な競争に参加するのでしょうか?理由があります。そこに、勝者だけが得るインセンティブが用意されているからです。インセンティブは、トランザクション毎の報酬と新規発行されたビットコインをもらえることです。これをめぐって、熾烈な競争が今も繰り広げられています。
日本円のような一般的な通貨なら中央銀行が新規発行しますが、ビットコインの場合は分散型で管理者がいませんから、新規発行主体が存在しません。このため、ビットコインのプログラム自体が、マイニング勝者のインセンティブとして自律的に新規発行する仕組みになっています。
クイズを解いてブロック詰めに成功したマイナーは、「自分が一番先にブロックをつくりました」と宣言して、今回競争に参加した全てのマイニングノードにブロードキャストします。この検証はマイニングノードだけで行われます。完成したとされるブロックの不正がないかチェックされて、全マイニングノードが承認すると、最終的にブロックとして確定します。勝ったマイナーは報酬として新規ビットコインを得ます。
こうして確定したブロックおよびビットコインアドレスは、台帳に記録されることとなります。ここで使用する技術がDLT(分散型台帳技術)です。DLTにより、④フルブロックチェーンデータベースへと書込みが行われます。
このフルブロックチェーンデータベースというのは、ビットコインの歴史をすべて記録しています。大きなサーバーを思い浮かべてください。世界に何台あるのか正確にはわかりませんが、全トランザクションデータをコピーして持っている。ノードとしては「フルノード」と呼ばれるものです。どこかのデータが壊れても、別のフルノードから持ってくればいいわけです。
ビットコインのノードは大別すると「フルノード」と「ライトノード」に分かれます。よくある誤解で、ビットコインでは100%すべてのノードが100%完全なデータを持ち合っている、という方がいます。個人のスマホもノードですが、そこにビットコインの全歴史は入りっこありませんね。軽量なスマホは、軽量な役割しか持たないライトノードの一つです。
ライトノードは、チェックするだけのノードです。先ほど、ビットコインで取引が発生するトランザクションが全ノードを巡ると書きました。そして全ノードが、入ってきたトランザクションをチェックします。このとき「OKでした」と返事を返すだけで、チェック済みのトランザクションを残さないのがライトノードです。このような違いがあります。
さて、ブロック詰め競争が1レース終わると、すぐに次のブロック詰め競争が始まります。このようにブロック生成が連続的に行われます。
ブロックが連続してつくられることが、また極めて重要な点です。
ブロックチェーンのキー概念
ブロックチェーンには、「バンドル(束ねる)」と「アンバンドル(ほどく)」という重要な概念があります。これにより、異なる組織間の連携を強化したり、従来一つに統合されていた仕組みを分散化したりすることが可能になります。
また、ブロックチェーンには「パブリック」と「プライベート」の2つの形態があります。しかし、パブリックブロックチェーンは管理者が存在しないため、現在の中央集権型の社会や組織構造には馴染みにくいという課題があります。そのため、実際のビジネスシーンでは、管理者を設けたプライベートブロックチェーンが広く採用されています。
バンドル/アンバンドル
ブロックチェーンの機能を語る上で、「バンドル(束ねる)」と「アンバンドル(ほどく)」というキー概念があります。
これは、従来バラバラだったものを一つにまとめたり、逆に一つに統合されていたものを個別に分けたりすることを意味します。以下、その具体例を紹介します。
- バンドルの例:薬局間の在庫共有
ブロックチェーンの「バンドル」の活用例として、複数の調剤薬局が在庫を共通管理する実験が行われました。調剤薬局は多くの薬を在庫として抱えていますが、消費期限切れによる廃棄が経営の負担になっています。
ブロックチェーンを活用することで、薬局同士が直接在庫を融通し合うネットワークを構築し、個別に存在していた薬局を束ねることが可能になりました。ここで重要なのは、各薬局が独立したままでありながら、相互に協力できる仕組みが実現した点です。 - アンバンドルの例:保険商品の分割
一方、ブロックチェーンは「アンバンドル」にも適しています。たとえば、現在の保険商品は「人生なんとかプラン」といった形で、さまざまな補償がパッケージ化されています。しかし、ブロックチェーンを活用すれば、特定の保険会社の枠に縛られず、「介護はA生命」「ガンはB生命」「先進技術治療の補償はC生命」といった選択が可能になります。
利用者は自分に最適な補償を自由に組み合わせることができ、保険会社による囲い込みから解放されます。
ブロックチェーンは、一企業の一システムにおいての置き換えではなく、異なる企業間で協力体制をつくるときにその真価が発揮されます。
パブリック/プライベートの違い
ブロックチェーンには、「パブリックブロックチェーン」と「プライベートブロックチェーン」の2つの形態があります。この違いを理解することも重要です。
パブリックブロックチェーンは、誰でもネットワークに参加できるということです。そもそもブロックチェーンの始まりがパブリックでした。サトシ・ナカモトがブロックチェーンで運用するビットコインを提言したわけですが、誰でも参加可能なオープンなネットワークで、まさにパブリックです。管理者が本当にいません。
その次に、誰でも参加できるわけではない、限られた参加者だけでつくるブロックチェーンが出てきました。これがプライベートブロックチェーンです。このネットワークに参加するためには誰かに承認してもらわなければならない。そこには承認する側の存在、つまり管理者がいるということです。
なぜプライベートブロックチェーンができたのでしょうか。この理解はとても重要になります。理由は明らかです。本当に管理者のいないパブリックブロックチェーンだと、今の中央集権型の社会や組織に馴染まず、結果としてシステム会社が仕事を得られないからです。
管理者がいないということは、万一トラブルがあったときに責任を取る人がいないことを意味します。今の社会や組織では、システムがあればそこに管理者がいなければならないはず。管理者を明確にできる現行のシステムから、投資をして管理者不在のシステムに変更して、今までの組織形態と見合うかは疑問です。
現実として、今すぐパブリックブロックチェーンを普及させるのは難しい。今の世の中が受け入れやすいようにカスタマイズしたブロックチェーンをつくらないと仕事にならない。それなら管理できる、ビジネス寄り、収益寄りのブロックチェーンをつくろうよということで、プライベートブロックチェーンが出てきました。疑似ブロックチェーンといってもいいかもしれません。
技術的な面から見てみましょう。パブリックだと悪意を持った人でも参加を拒めないので、多数決による合意形成が極めて重要になります。この点、プライベートだと参加者があらかじめ決まっていて、悪意があると見なされる人はそもそも入れませんから、原則として多数決が起きません。プライベートではブロック化をやらない例もあり、そうなると合意形成の重要性はさらに薄まります。
今の世の中向けにローカライズされたものとしてプライベートが出てきて、システム会社がそれをいろいろな企業・団体に売り込んで、みんなが職場で一生懸命使おうとしてる。でもメリットを出すことに成功しているのは、一職場への導入よりも、前述したような別々の企業体をバンドルさせるコンソーシアム型です。
ブロックチェーンに向かないこと
ブロックチェーンは万能ではなく、用途によっては導入をお薦めできない場合もあります。ブロックチェーン導入をお薦めしないパターンを3つご紹介したいと思います。
- ①一件あたりのデータが大きい場合
- ②特定のデータのみを検索してすぐ取り出したい場合
- ③管理対象が、個体管理に向かない場合
順を追って見ていきましょう。
①大きなデータ
1つ目は、大きなデータの管理です。極端ですが、管理するデータが一件あたり数ギガバイトあって、それを1日何千万件、何億件も扱う場合、処理が現実的ではありません。
とはいえ、このパターンには解決策があります。ブロックチェーンと既存技術と組み合わせてシステム構築する方法です。ブロックチェーンはそもそも台帳管理の技術なので、取引される商品自体を保存する技術ではありません。ですからブロックチェーンではコンテンツそのものは扱わず、コンテンツの目録と利用履歴の管理に特化するのが現実的です。
②特定のデータのみ検索
2つ目の向かない用途は、過去の特定のデータのみを取り出したい場合です。×年×月×日時点のこの取引を今すぐ見たいといったとき、実はすぐにはできません。
ブロックチェーンというのは、過去から今に至るまでの変化をすべて記録した台帳が、暗号化されて格納されているイメージです。特定の情報を見ようと思えば、フル・ノードに行ってこれまでのすべての変化を見ていくことになります。
ブロックチェーンである以上、そこには暗号化されたアドレスしかありません。人間に理解できる、読めるようなものは一つも残っていません。
つまり、キーワード検索、テキスト検索のようなことはそのままでは不可能なのです。「ID何番のデータだけすぐ取り出せ」と求めるなら、原則的にすべての暗号を解読して元のテキストに戻したうえで辿らなければいけません。時間がかかることはご理解いただけると思います。
実際のところ、最近プライベートブロックチェーンの一部ではこのあたりを改善する新しい手法もで出始めています。ただ、それはまだ例外の範疇で、一般的にはテキスト検索などは不得意だと認識してもらって結構です。
③個体管理しにくいもの
それから3つ目です。個体管理しにくいものはブロックチェーンでの管理に向きません。わかりやすくするために一例を挙げるなら、農産品です。
想像してみてください。生産・流通過程を追跡するために、収穫したピーマン一個一個にシリアルナンバーをつけられるでしょうか。そしてピーマンに限らず、農産品の多くは、出荷時には一個単位でなく、束や袋、ネット、箱にまとめられたものが一単位として扱われることになります。
より具体的な例として、ピーマン5個入りの袋に識別IDを割り振るとしましょう。スーパーの野菜売り場に並んだその袋のなかで、5個のピーマンのうち1個が黒く変色していたとします。よく見ずに買って帰ってしまったお客様が後で怒りだす。そしてスーパーは識別IDから生産者を突き止めようとします。
でも、もしもこのトレーサビリティをブロックチェーンで管理していたとしても、検証できるのは、袋詰めされた後の過程になります。その変色ピーマンを育てたのがどの生産者で、どんな工程を経て袋に入れられたのか正確にたどる術はありません。万が一だれかが悪意を持って、袋詰めの前段階で変色ピーマンを混入させたとしても、それもわからないのです。
解決策としては、収穫前か収穫直後にピーマン一つ一つにID番号シールなどを貼っていくしかないでしょう。しかしそのためにどれくらいコストがかかるでしょうか。そのコストは、ブロックチェーン導入のメリットで吸収できるほど小さなものか、という話になってきます。
トレーサビリティの理想通り、材料の生産時から製品の完成、出荷、流通、そしてエンドユーザーによる購買までの全行程を漏れなく捕捉できれば最高です。でもその完成品が個別管理しにくい性質のもので、箱などに集められるところまで進んでやっと管理対象になる、ということではどうしても追跡に限界があります。
「ブロックチェーンなら記録を書き換えられるリスクが低いから安全です、トレーサビリティに最適です」といっても、現実にはどうにもならない面もあるということです。
お気づきのように、この3番目の問題はブロックチェーン特有の技術的課題ではありません。ブロックチェーンを含むソフトウェア全般、あるいはインターネットだけでは解決できない課題が社会にはたくさんあります。
ブロックチェーンが拓く未来
ブロックチェーンは、単なる技術ではなく、社会の仕組みを根本から変える可能性を持っています。その中心にあるのが、自律分散型組織(DAO)やスマートコントラクトといった概念です。
これらは、従来の中央集権型システムとは異なり、人の介在なしにルールを執行し、自動的に運営される新たな世界を生み出します。
さらに、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による業務の自動化が進むことで、人間の役割は変化し、トークン経済の発展によって、貢献度や価値を新たな形で可視化する社会が実現します。これは、従来の「お金」だけでは測れなかった価値が流通する世界へとつながります。
自律分散型組織(DAO)とは
ブロックチェーンの議論でよく出てくる用語に、DAO(ダオ)があります。自律分散型組織の略語で、ちょっと難しい印象になってしまいますが、ブロックチェーンを理解する上では極めて大切な概念です。
DAOは、今の時代の次にくる世界観を表しています。それは、ブロックチェーンやAI、ロボットなどつくられたシステムが、私たち人間を自動的に使う世界です。
システムが私たちを使うとはどういう意味でしょうか。ここでビットコインを思い出してください。ビットコインは、ある企業が運営しているわけではありませんね。でもその中でとても大きなお金が回っていて、人々はビットコインをめぐってざわざわと心動かされ、ときに行動も左右されている。DAOの本質は、このように「システムが人間を使う」構造を持つことにあります。
ブロックチェーンの可能性を考えるには、原則的にこの視点に立つ必要があります。今後どうやって、自律的・自動的に動くシステムをつくり、このシステムを組織化して、その周りに人間がいるという状態をどう実現するか。これこそがブロックチェーンの本当の意味での可能性です。
スマートコントラクト
まず押さえなければならないキーワードがスマートコントラクトです。ブロックチェーンのシステムの中に、ルールやレギュレーションを組み込んで、自動的に動かす技術を指します。
もちろんそのルールをプログラムに落とし込むのは人間の仕事ですが、ルールの執行はスマートコントラクトによって自動的に行われます。三権分立でたとえれば、立法が人間、司法と行政がプログラムということになります。いったん仕組みが動き出せば、その後は原則として人による管理がいらなくなります。
人がいなくても動くことをブロックチェーンはよしとしています。一般的な会社や組織であればボスがいて、一定のルールの下にボスが意思決定をして組織や人を動かします。
しかしスマートコントラクトになると、一定のルールや条件が事前にプログラムに埋め込まれてさえいれば、条件を満たせば実行、満たさなければ実行されない、という動き方になり、ボスは不要になります。「ルールの下の平等」がいわば強制的に実現するわけです。
そのルールはスマートコントラクトのプログラムが変更されない限りは絶対で、その意味ではトラブルは起きようがありません。人間がプログラムに使われる世界観です。これがDAOを考える上で不可欠な概念です。
RPAがあらわすもの
ここ数年いろいろな企業が話題にしているRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)というキーワードも、DAOに向かう社会の動きを象徴していると思います。
これはロボットでものごとを自動処理することをいいますが、ソフトバンクのPepperや、自動車製造のラインのロボットを指すのではなく、パソコン内のソフトがロボット的に人間の代わりに働いてくれるという意味になります。
人間のパソコン操作をソフトで自動化する。エクセルのマクロによく似たイメージです。たとえば、伝票を見てパソコンで数字を入力するような単純作業を全て自動化しようというのがRPAです。今のところ業務効率改善という文脈で流行っていますが、実はDAOの世界を実現するためにも重要な技術です。
自律分散型社会の「自律」においては、スマートコントラクトでレギュレーションとルールを決めて、単純な入力作業はRPAで自動化すれば誤入力はなくせます。入力値が本当に正しいかどうかをチェックできるようなルールをスマートコントラクトに組み込んでおけばいいですから、今の社会にRPAが広がることはとても大事です。
トークン=仮想通貨ではない
DAOに続き、どうしても理解しておかなければならないのが「トークン」です。トークンは仮想通貨とは異なり、コミュニティ内での貢献度や価値を表すものです。従来のお金のように換金することが目的ではなく、コミュニティの中での信用や満足度を示すものとして機能します。
トークンがつくる「社会」
ブロックチェーンはバーチャルな組織、もっといえば社会をつくる力を持っています。
経済(=エコノミー)は、社会(=コミュニティ)の基盤です。エコノミーという価値交換の手段がなければ社会が成り立ちません。ブロックチェーンには、価値を定量化し、交換する手段としてトークンがあります。
そして、実質的な法律・ルールとしてスマートコントラクトが機能します。この中に人間が入れば、それはまさに社会です。トークンエコノミーの上にトークンコミュニティがあるという構図です。
第3レイヤーのエコノミー
人類のエコノミーの発展について整理しましょう。今までは、大きく分けてインターネット普及以前と以後の、2段階で発展してきました。
- 第1レイヤー
フィジカルによるレガシー化された中央集権型エコノミー - 第2レイヤー
インターネットにより情報が中央集権化し、フリーミアム化したエコノミー
これは、ネット業界でいう「Web1.0」、「Web2.0」と時期が重なります。
ただWebというとネットに比重を置く響きになりますから、世界や社会、人類のエコノミーを論じる際には「レイヤー」がよさそうです。Webいくつ、と言うのがネットの中の世代を表すとしたら、世界や社会の世代という意味で、第1レイヤー、第2レイヤーと呼んでみたいと思います。
第1レイヤー、ネットでいうWeb1.0の世界では、リアルなお店に行ってモノを買う、人々は直接会って話す、などフィジカルな接触が支配的でした。そこにインターネットが融合されて今の第2レイヤー、Web2.0がある。言い換えれば今はフィジカルとインターネットが融合した、中央集権型エコノミーの世界です。
ここから視点を変える必要があります。今から、第3レイヤーの新しいエコノミーができるのです。
- 第3レイヤー
自律分散型により、規律が自動化され新たな価値が定量化され交換されるエコノミー
この土台が、世界を非中央集権の方へと引き寄せる力を持つブロックチェーンです。ここで、第2レイヤーまでは明確に表すことのできなかった、さまざまな価値が定量化され、交換されるようになります。
一方ネット業界は「Web3.0」と呼ばれる世代に入ってきます。Web3.0では、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などの仮想空間をつくりだす技術を総称するxRという用語がキーワードになります。
第3レイヤーを形づくる新しいブロックチェーンビジネスは、ビットコインのような金融志向の方々からというより、社会基盤テクノロジーとしてのブロックチェーンを志向する人たちによって牽引されるでしょう。
私たちは今、その進化の過程を目の当たりにしているのです。
以上です。読んでいただきまして、ありがとうございました😌